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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1347号 判決

控訴人

株式会社太洋社

右代表者代表取締役

国弘直

右訴訟代理人弁護士

大下慶郎

泉信吾

森保彦

清水謙

被控訴人

斉藤重春

右訴訟代理人弁護士

坂本修

(他六名)

右当事者間の昭和四九年(ネ)第一三四七号地位保全仮処分申請控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を取消す。

被控訴人の申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。(以下証拠関係等略)

理由

一  控訴人が書籍・雑誌その他の出版物の取次販売を業とする株式会社であり、東京都中央区に本社を置き、東京、千葉、金沢、福井、四国、九州に支店、営業所、出張所等を設けていること、被控訴人は昭和四二年四月控訴人会社に雇用され、販売部西部販売課書籍係を経て、昭和四五年三月から販売部雑誌課西部係四国・中国地区担当として勤務していたものであること、控訴人が昭和四六年四月二四日被控訴人に対し被控訴人を懲戒解雇する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二  本件解雇理由についての判断の基礎となる事実として当裁判所が判示すべきところは、原判決理由の三の一の説示(原判決四〇枚目裏四行目から四六枚目裏一行目まで)と同一であるから、これを引用する。当審における被控訴人本人尋問の結果中右引用にかかる原判決の認定に反する供述部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる疎明はない。

三  そこで、右引用にかかる原判決認定の被控訴人の行為が控訴人会社の就業規則第七四条第一〇号の懲戒解雇事由に該当するか否かについて考えるに、控訴人会社の就業規則(書証略)には、懲戒に関する規定(第七章第二節)があり、懲戒の種類として譴責・減給・出勤停止・諭旨解雇・懲戒解雇の五種を列挙し(第七二条)、原判決末尾添付の別紙のとおり、譴責・減給・出勤停止と諭旨解雇・懲戒解雇とを区別して、それぞれ個別的・具体的な懲戒事由を列挙しているところ、前記事実によれば、被控訴人は昭和四五年三月三日付で販売部雑誌課西部係四国・中国地区担当となってから本件解雇に至るまでの一年余りの間、業務の繁忙その他やむを得ない事由がないのに、国弘社長、赤石課長、大川係長の再三にわたる職務上の指示、注意に従わないで職務を怠り、大量の業務処理を滞留させ、その結果、関係得意先書店に対して多大の迷惑をかけ、控訴人会社の取引上の信用を失墜させ、控訴人会社に有形・無形の損害(例えば赤石課長が四国出張所大橋係長らを同行して四国地区の得意先書店を回ったときの出張旅費の支出により有形の損害を生じたことは明らかである)を与えたものであるから、被控訴人の行為は、その態様、情状に照らし重大かつ悪質であって、就業規則第七四条第三号の「職務上の指示命令に不当に従わず職場の秩序を乱したり又は乱そうとしたとき」に準ずる背信行為というべく、就業規則第七四条第一〇号所定の懲戒解雇事由に該当する。もっとも、控訴人は、本件解雇の通知書には就業規則第七四条第九号を適用して被控訴人を懲戒解雇する旨記載していたものであるが、解雇の際理由を告知することは解雇の要件とは解し難く、解雇の適否を解雇の際明示された解雇理由だけから判断しなければならないとの根拠はなく、解雇当時明示した以外の理由も訴訟上主張することを妨げないものと解するのが相当であるから、控訴人が本件訴訟において解雇通知書に記載されていなかった就業規則第七四条第一〇号の適用を主張することは何等差支えないところである。

四  被控訴人は、本件解雇は不当労働行為であると主張し、昭和四三年一一月一〇日太洋社労働組合が結成され、被控訴人は当初副委員長として、その後書記長として組合活動に従事してきたことは当事者間に争いがないけれども、控訴人が被控訴人を解雇したのは、前記認定のように被控訴人が大量の業務処理を滞留させたことの故であって、本件解雇は被控訴人が組合の副委員長又は書記長として活発な組合活動を行ってきたことの故をもってなされたものであるとの事実は、この点に関する原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果は措信し難く、他にこれを認めるに足りる疎明はないから、被控訴人の右主張は採用することができない。

五  次に、被控訴人は、本件解雇は権利の濫用であると主張するが、前記認定の事実に照らし本件解雇は権利の濫用であるとは認め難く、他に本件解雇が権利の濫用であると目すべき事情を認めるに足りる疎明はないから、被控訴人の右主張も採用することができない。

六  したがって、本件解雇は有効であるから、被控訴人の本件仮処分申請は、その被保全権利について疎明を欠き、保証を立てさせて疎明に代えることも適当でないので、これを却下すべきものといわなければならない。

よって、本件仮処分申請を認容した原判決は不当であるから、これを取消し、右申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鰍沢健三 裁判官 輪湖公寛 裁判官後藤文彦は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 鰍沢健三)

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